読みもの

卒論インタビュー―アニメと密―

2021.07.27

インタビュアー:ムラカミ(文芸学部マスコミュニケーション学科2年)
インタビュイー:Y(文芸学部マスコミュニケーション学科4年)

1 いろいろな意味での「密」


ムラカミ:まずは卒論のテーマを教えてください。
Y:タイトルは『アニメーションと密 なぜアニメーションは集まって作られるのか』。最初は『距離とアニメーション』ってタイトルで書いてたんだけど、最後の最後に「密」に変えました。アニメーションの作品そのものではなくて、産業として、作る側のことを考えて執筆しました。
ムラカミ:「密」って聞くと、感染予防かな、と思ってしまいますが、それよりも東京西部に制作会社が多いということを踏まえた上での「密」なんですね。
Y:そう。東京の西側に制作会社が集まってるっていうのもあるし、会社の中でもたくさんの人が集まって、近い距離でアニメーションを作っている。それはなんでだろうなっていうのを、3年次から卒論のテーマとして考えていたんだよね。しかもそれに加えて、昨年4月から5月の緊急事態宣言下では、社会全体としてリモートワークが推奨されていたけど、アニメ会社では「密」とまではいかなくても、一つの場所に集まる制作スタイルがまだまだ多いような印象を受けたんだよね。それで内容が少し変わって、キャッチーさをとって『アニメーションと密』としました。
ムラカミ:卒論のテーマまでもが変えられてしまうなんて……。

2 アニメーションとの邂逅


ムラカミ:じゃあアニメーションに興味をお持ちだったから、アニメーションで卒論を執筆したってことなんですかね。
Y:そうそう。でも自分はアニメーションで卒論を書きたくなかったんだよね。
ムラカミ:えっ(笑)。
Y:最終的には自分で選んだんだけど、流されるがままにそうなってしまったというか。
ムラカミ:でも昔からアニメーションは好きだったと、卒論の「はじめに」に書いてありましたよね。
Y:そうそう。小学校1、2年の時に、藤子・F・不二雄先生が原作の『キテレツ大百科』ってアニメを観てた時にうちの親が、背景画とキャラクターで絵が違うねってことに気がついたんだよね。当時藤子先生が全部描いてるものだと思ってたんだけど、エンディングをじっくり見てみたら、全部違う人とか会社が分業して描いてたんだよね。キャラクターの顔も話ごとに全然違っててさ。
ムラカミ:そこに気づくなんてお目が高い。
Y:それで好きだと思った絵柄のアニメーターさんをネットで調べてみたら、スタジオジブリの作品や『ルパン三世』とかをやってた人で、その後『おじゃる丸』や『こち亀』を描いてるってことがわかった。
ムラカミ:幅広いジャンルを手掛けてたんですね。
Y:そう。この人たちなんでも描けるんだ!すごい!ってなって、そこからアニメ業界に興味が向くようになったんだよね。高校卒業後に専門学校や美大に進学するって手もあったんだけど、宮崎駿さんとか高畑勲さんも普通の大学を出てからアニメーションに携わってるから、自分もそうしようと思って。アニメ業界って結構緩い業界だから、学生でもバイトとして潜り込めたしね。
ムラカミ:じゃあ、結構当初からアニメーションに関する卒論を見据えられていたということですか?
Y:そうでもないんだよね。大学ではアニメーションに関する勉強をしようとは思っていなかったんだ。でも、サークルやバイトとして常に自分の隣にはあった。

3 転機となったあの事件


Y:だから3年のゼミ論も別のことで書こうとしてたんだよね。渋谷という街と書店について書こうとしてた。
ムラカミ:だいぶ離れてたんですね。
Y:そこから興味が百貨店に移って、そこから百貨店の広告に行きついて、さらに消費される芸術、みたいな感じで、だんだんアート寄りになっていった。でも一番大きかったのは、京都アニメーションの放火事件1かな。
ムラカミ:衝撃的であまりに酷い事件でした。
Y:そうだね。卒論関係なしに、京アニの事件については個人的にまとめておこうと思って、その時のSNSでの炎上とかをまとめてみたら、やっぱり興味が湧いてきんだよね。アニメーションも毎週放送されるという意味で消費される芸術だから、それと結びつけて、もう少し制作側に注目したものにしようと思って、ゼミ論は書いた。あとは新倉先生にYさんはアニメーションで書く方がいいよって言われて(笑)、だんだん頭の中がアニメーションになっていったって感じ。3年のゼミ論は卒論のベースとして結構残ってるかもね。
ムラカミ:じゃあ、京アニの事件はかなり大きな転換点だったってことですね。
Y:そう。ファンと制作側との間に作品っていう大きな壁がある、双方にとって顔の見えないコミュニケーションになってしまってるんじゃないかと思ったし、そこには距離があるんだなと思った。それがそのまま卒論に「距離」として残ったって感じかな。

4 俺の卒論がこんなに大変なわけがない


ムラカミ:全体を通して大変だったことってありますか?
Y:たくさんあるな……。一番は、自分が仮説を立てていなかったっていうこと。普通はテーマがあって、これはこういうことなんじゃないかって仮説を立てて、インタビューするなり文献を読むなりして考えるってことをするべきだったんだろうけど……。
ムラカミ:なるほど。
Y:なまじアニメ業界に片足突っ込んでたからだと思う。知識があるから書けるだろうって高を括ってたんだけど、進むにつれて仮説がないっていうことに気づいた。
ムラカミ:インタビューも、第一線で活躍してる人に聞いて、そこから自分の考えにまとめていくのは難しそうです。
Y:第一線の人たちに話を聞くと、すごく納得しちゃって、確かにそうですね、ってなって話が終わってしまったんだよね。あと、サークルとかでもインタビューはしてたし、まとめることはできるんだけど、それを基に自分の意見を立てていくっていうのは全然やったことがなかったから、できなかった。
ムラカミ:自分の中で何か軸のようなものを持っておくのがいいんですかね。
Y:持ってたことは持ってたんだけど、それは結局アニメ業界側の軸だったから難しかった。そりゃ、話聞いちゃったらずっとアニメ業界にいる人の意見に流れるよね。
ムラカミ:難しいですね……逆に楽しかったこともありますよね。
Y:ゼミが楽しかったのと、最後の最後で、ドイツの批評家ヴァルター・ベンヤミンの『複製技術時代の芸術作品』を読んだんだけど、それが面白かった。アニメとは違う軸を持てたし、やっぱり新しい学びがある方が面白いなあって思ったんだよね。あとは卒論自体には関係ないんだけど、みんなで一緒に卒論書いてるのは楽しかった。
ムラカミ:学生らしい学生って感じでいいですね(笑)。
Y:後期からは3、4人で、3号館のホールで集まって書いたりしてたね。卒論とは直接関係ないけど、そういうのはすごいいい体験だったね。
ムラカミ:なんか受験みたいですね。
Y:そうだね(笑)。みんな違う科目を勉強してる受験みたいな。わかんないことを補い合えるしね。あとはアニメ業界の歴史を卒論の中で振り返ったんだけど、その中に出てきた会社に就職することになったから、それはある意味プラスだったね。
ムラカミ:そういうのって、就職のために勉強する人がいるくらいですもんね。

5 いろいろなことが役に立った


ムラカミ:じゃあ、今後のお仕事はアニメ業界ってことですよね。
Y:そう。演出助手として採用されました。
ムラカミ:すごい。おめでとうございます。
Y:受けてみたら受かったって感じなんだけどね(笑)。アニメ業界は元々選考が遅くて、さらにコロナ禍で遅れて、内定が出たのは8月なかばくらいだったね。受けてる会社が少なくて1ヶ月に1社くらいだったから、その時その時でひとつ会社に向き合えたのがよかったのかもしれない。
ムラカミ:理想に感じます。
Y:就活も卒論もバイトも、全部同じようなことをしてたから、どれかのためだけになってることはなかったと思う。趣味で読んだ本が卒論に役立ったり、バイトが就活で役立ったり。関係ない事柄が繋がっていくのはあるかもしれないなあ。

6 卒業論文について


ムラカミ:あなたにとって卒論とは、なんでしょうか。
Y:学生生活を総括するもの、って気がします。アニメに興味を持ったのが小学校の時だから、学生生活始めの時から興味を持ったものをきちんと振り返って、アニメーションについて自分がどう思ってるかをまとめられたし。高校時代は陸上やってたり、大学ではマスコミ学科の勉強もあったから違うことはやってたけど、それでもいつもアニメが横で走ってた。小中高大ってちょっとずつやってきたことのまとめになったんじゃないかなって思います。
ムラカミ:総括ですか……。すごい。
Y:正解かどうかわからないけどね。例えばアニメーションのことをやるなら、戦前戦後の文化であった紙芝居の話まで遡ればもっと違うことがわかるのかなとかって思うし。卒論を書いてる時は視野が狭くなっちゃうなと今は反省してるんだけど、10年後に読んで面白いなって思えればいいなあ、と思います。

  1. 2019年7月に発生した、株式会社京都アニメーションのスタジオへの放火事件。71人が死傷した。このときYは3年生でマスコミ演習を履修しており、卒業論文の方向性を定めていく時期であったため、大きな影響があったという。