文芸学部のこと

文芸のいろは ヨーロッパ文化学科

2020.11.13

 (インタビューの実施日は2019年12月になります)

 「これまで」の自分と向き合って

――ヨーロッパ文化学科を選んだ理由について、お聞かせください。

五十嵐聡子(以下、五十嵐) 私は高校生の時にフランスへ行ったのがきっかけです。当時、フランスについての知識が全くなかった自分にとって、フランスは何もかもが自分にとって新しい世界で、惹かれたことを覚えています。それから大学を選ぶ際に「フランスっていう国について知りたいな」と思うようになって。加えて、文学や歴史、哲学みたいな枠に縛られたくないな、全部学べるところってないかな……と探して、成城大学のヨーロッパ文化学科を志望しました。大学を調べていくなかで、意外と「ヨーロッパ文化」っていう大きいくくりで研究が出来る大学って全国でも限られているんだな、と思いました。

村上凜(以下、村上) 私がこの学科を選んだ理由はふたつあります。

 ひとつは、高校1年生の時にヨーロッパのサッカーに興味を持ったことです。その時にバイエルン・ミュンヘンというクラブを好きになって、それからバイエルン・ミュンヘンの本拠地があるドイツを中心に調べていったことが、ヨーロッパに興味を持ったきっかけです。

 もうひとつは、ヨーロッパのことについて調べていくうちに、NHKの『100分 de 名著』という番組で登場した、フランスの哲学者であるジャン=ポール・サルトルについて興味を持ったことです。そこから「実存主義」っていう考え方に興味をもって、西洋哲学について学びたいなって思ったので、ヨーロッパ文化学科を志望しました。


1、ドイツのバイエルン州ミュンヘンに本拠地を置くドイツサッカーリーグ連盟機構(ブンデス・リーガ)加盟クラブ。

2、サルトルの「実存主義」は、それまで人々を支えてきた思想や価値観を崩壊させた世界大戦後の20世紀において、「「人間存在」の在り方(実存)に新たな光をあて、人々がさらされている「根源的な不安」に立ち向かい、真に自由に生きるとはどういうことを追求した」ものである。(参考 NHK 100分 de 名著 48 実存主義とは何か https://www.nhk.or.jp/meicho/famousbook/48_jitsuzon/index.html)


――今、研究している分野について、お聞かせください。

村上 フランスの哲学について研究しています。1年次ではドイツ語とフランス語を履修していました。語学を勉強していく中で、ドイツに興味を持ったらサッカーについての研究、フランスに興味を持ったら哲学の研究をしようかな……と思って。結果的にフランスを選びましたが、フランスの哲学思想や哲学者が、ドイツのハイデガーに影響を与えていたり、その逆もあることがわかってきたので、良かったなと思っています。

 ヨーロッパ文化学科に村瀬鋼先生というフランス哲学の研究をしている方がいらっしゃって、先生が開講する「ヨーロッパの思想講義Ⅱ(仏)」の中でアンリ・ベルクソンという哲学者の研究を知って、面白いな、自分も研究したいなと思ったのが研究のきっかけです。アンリ・ベルクソンの研究の内容が「人間は、本当に世界に対して正しい認識が出来ているのか」というもので、今はそこから派生した「認識論」について研究したいなって思っています。

 ヨーロッパ文化学科の先生は他の人が翻訳をしたテキストを使わずに、自分で翻訳をした教材を使う先生が多いなって思います。「ヨーロッパの思想講義Ⅱ(仏)」でも、村瀬先生が翻訳してくださったテキスト付きのプリントが配布されるので、それを読みながら先生の授業を受けられますし、家でも読み返すことができるので、受講して良かったなって思います。

五十嵐 私は今「社会文化論」のゼミに所属しています。哲学や文学、芸術だったり幅広い分野を取り扱う、なんでもできる学問なんですけど、私はその中で歴史に興味を持ちました。

 18世紀から19世紀にかけたフランス革命やイギリスの産業革命など、急激に変化するヨーロッパの社会状況を学ぶなかで、「フランス社会」を上流階級を中心とした政治面における史学ではなくて、革命を起こした労働者、民衆を中心に見てみたいな、と思うようになりました。フランスの民衆が当時どのように生活していたのか、社会の変化に応じて生活がどう変化するのかを知りたい、ということを先生に相談したら、当時のフランスの新聞を見せていただけて。その中から労働者の「住居」に視点を置きました。新聞記事には、労働者の住居はものすごくひどい状況だったっていう事が書かれていて、まずはこの記事内容を歴史的観点を持った資料として一生懸命翻訳しているところです。ここから民衆の生活がどのように変化したのか、また19世紀の新聞が上流階級の人に向けられたものなので、それを受けて上流階級の人たちはどのように行動したか……ということを調べています。

――「文化」に関する研究ということもあって、ヨーロッパ文化学科は研究できることの範囲がとても広いように感じます。

村上 逆に広すぎるんですよね、ヨーロッパ文化の研究は。

五十嵐 そうそう。

村上 研究を進めるうえでヨーロッパ全体を見る必要があるんですよね。こと哲学は変遷を追っていく必要があって、その時々に、例えば哲学が文学や芸術など別の分野に影響を与えていたりするので、幅広い分野を理解しつつ、相関的に自分の研究したいことを調べることが大事なのかなって思います。

五十嵐 そう思うと「研究テーマを絞る」っていうのがヨーロッパ文化学科で一番難しい選択なんじゃないかなって思います。

村上 僕の場合は哲学っていう道がある程度決まっていたのですが、でも、色々と勉強していく中でテーマを決めるというのもまた楽しいんじゃないかなって思います。

五十嵐 正直なところ、新聞の記事を読んで「住居」っていうところにたどり着けたのは幸運だったなって思います。新聞を読んで何かつかめればいいなって思っていたので……。ただ、一回自分のやりたいことを絞れると、ヨーロッパ文化学科の先生は全力でサポートしてくださいます。私が所属しているゼミの先生は文学研究の出身なのですが、歴史についての専門的な部分になってくると、歴史学の先生のところに行って一緒に質問をしたり、本を勧めていただいたり。学生と先生の距離が近い学科で、研究テーマを絞れていなくても「やる気」があればとても楽しくなる学科だと思います。

村上 そうですよね、なかなか「どんな学科なの?」っていうことをまとめるのが難しい学科なんですけど、高校の時には得られない、新しい学びがたくさんある学科なので……そうなるとやりたいことがね、いくらでも湧いてくると(笑)

五十嵐 (笑)

 「これから」のみんなに向けて

――最後に、ヨーロッパ文化学科に興味のある人へ、ひとことお願いします。

五十嵐 (この学科に進みたいと思っている人に向けて)ヨーロッパが好き! フランスやドイツのような国々が好き!っていう素直な気持ちだけでも進んで学べる場だと思います。私自身もそういう理由で入りましたが、だからこそ見つけられる新しい視点もあると思うし。いろんなことを学びたいと思える人には向いている学科だと思います。

 (1年生に向けて)苦手な分野でも進んで勉強したほうがいいと思います。私は哲学が苦手だったんですけど授業は取りましたし、その中でもしかしたら興味が持てる分野に出会えるかもしれない。そうでなくとも研究に対する意欲って出てくるものだと思っています。そういうところを絶対に見逃してはいけないと思うので、ちょっとでも「あ、これいいな、面白いな」と思ったことは、少しでもいいから本を読んだり、先生に聞いてみたり、自分からのアプローチをすることが大切なんじゃないかなって思います。

村上 ヨーロッパ文化学科はいろんなことを学べる学科ですが、そのなかでも一番知識量が多くなるのはやっぱり言語だと思います。例えば英語だったら、早い人は小学校から学び始めて、大学までに合わせて12年間、中学校からでも6年間は学んで大学に入るけど、この学科では大学1年次から3年次までに、第一外国語で選択するドイツ語かフランス語を学んで4年次の研究に活かす必要があります。だから、言語に関しては1年次からしっかり積み重ねないと2年次、3年次と単位的にも大変になってきます。自分も今苦しんでいるところなので……(笑)。

五十嵐 (笑)。うん、でもそうだよね。

村上 だから、ドイツ語かフランス語のどっちをしっかり学ぶか決めるのは大事だよってことを伝えたいです。これは大変なことでもあるけど、たのしい部分でもあります。

 あと、ここまで「ヨーロッパ文化学科は何でも学べる」って言ってきたんですけど、実際そうでもないと思うんですよ。

――……えっ?

五十嵐 えっ?

村上 というのも、先生によって研究の得意分野があるんですよね。

五十嵐 あっ、それはそうだね。

村上 ヨーロッパ文化っていう範囲の広い学問だからこそ、先生方の専門とする分野も限られてくるので、自分の気になる時代や事柄、視点は何かってことと、それに対し自分がどう感じるか、これらを研究している先生はだれなのか、っていう事も含め、しっかり調べることが大事だと思います。そういうやり取りが、学び舎としての大学の姿なんじゃないかな、って思います。

 Topic インタビュアーのつぶやき

 ヨーロッパ文化学科のおふたりにインタビューをさせていただき「自分から進んで学ぶ」ことがどれほど大切か、ということを感じました。

 村上さんであれば「サッカー」という興味の観点からヨーロッパについて調べていき、今の自分にまでつながる「哲学」というテーマにたどり着いた。五十嵐さんの場合は「フランス」に対する興味関心を大学で持ち続け、先生に尋ねることで「住居、住まい」という観点から研究を進めることが出来た。これらは自発的に行動したからこそ、自分の望んだ結果に結びついているのではないかな、と私は思います。また、このことはヨーロッパ文化学科に限らず、他の学科・学問領域においても言えることなのではないかな、と。

 確かに、幸運のような巡りあわせはあるかもしれません。ですが、まずはその巡りあわせのチャンスをつかむために、自分が出来ることを精一杯努力することが大事だなと。なるほど、これが「人事を尽くして天命を待つ」ということか……。わが身もしっかり振り返らなければ! と思わされたひとときでした。