文芸学部のこと

文芸のいろは 国文学科

2020.02.21

 「これまで」と向き合って

――国文学科を選んだ理由について、お聞かせください。

稲野佳央(以下、稲野) 中学1年生のころに百人一首を授業で習って、その時に「少ない文字数の背景に込められた物語」に触れたことが、古文に興味を持ったきっかけでした。それから、高校生になって本格的に古文の授業が始まると、『平家物語』の文章のリズムに「いいな」って思ったり、今の日本人には見られない昔の人の「誰かのために命を捨てられる」っていう心情や姿勢に感動して。

 私もともと昼ドラが好きなんです。昼ドラって大抵ドロドロした人間関係の物語なんですよ。古文って昼ドラに近くて、人間ドラマのドロドロさもありつつ「ひとりの人に対して、こんなところにまで深く考えられるんだ」っていうものが印象的で、それを伝えてくださった先生みたいに、私も伝える立場になりたいなって思うようになりました。それで、自分の好きなものを勉強しつつ、夢が叶えられたらいいなって思って、国文学科を選びました。

北原優斗(以下、北原) 自分はもともと小学生の頃から本を読むのが好きだったんですけど、もっと物語を深く知りたいなっていう思いがずっとありました。

 普段自分たちは日本語を母語として生活しているけど、日本の文学作品であったり、古典作品を読む時に、「なんで同じ日本語を使ってるのに、こうも把握しきれないところがあるんだろう」って思ったことがあって。もっともっと勉強して知識をつけて、古典作品をその当時に近い状態で読めたらいいなって思うようになりました。

 就職とか将来のことを考えて、経済学や社会学みたいな実用的なものを学んだほうがいいのかなって悩む時期もあったんですけど、自分が勉強したいことっていうのは国文学(日本文学についての研究)だったり、言葉の意味を考えることで……。そういうことを大学4年間、大人になる前にしっかり勉強できる期間にしたいなと思ったので、国文学科に進みました。

 「ちょっとしたこと」と「無限の可能性」

――今、興味のある分野と、所属しているゼミについてお聞かせください。

稲野 大学に入って初めて国語学(日本語についての研究)っていうものに触れて、普段使っている日本語の細かいルールや、昔の言葉のルールを学ぶようになってから「日本人の言葉ってどうやって進化してきたんだろう」っていうことに興味を持ちました。今はそこから発展して「若者言葉」について調べています。自分が音楽をやっていたこともあると思うんですけど、『源氏物語』の言葉の独特な言い回しとかリズムに印象を受けたのも、興味を持った理由としてあります。言葉って普段から使っているものだからこそ、もっと追及したら面白いんじゃないかなって思って、国語学のゼミに所属しています。

北原 平安時代の文学作品にすごく興味があったっていうことが、まず前提としてあります。その上で、今のゼミを担当してくださってる先生の講義を1年生の時に受けて、中古1 文学の文章って言葉がそぎ落とされているのに、いざしっかり読んでいこうとすると、少ない文章について無限に解釈できるってことがわかったんです。「ひとつの解釈」を作るってことは、ほかの解釈を切り捨てた状態の解釈になるんですけど、そうじゃなくて、本当は「少ない言葉の中に解釈の広がりがあるんだよ」っていうことに感動して、これを4年間通して研究したいなって思いました。それがゼミを選んだ決定的な理由です。


1、日本文学史の時代区分における平安時代のこと。


――研究する分野に興味を持ったきっかけとなる授業はありましたか。

稲野 私は1年生の時の「国語史概説(Ⅰ・Ⅱ)」っていう必修の授業です。例えば「次は新橋です」っていう駅の電光掲示板に、英語で「shimbashi」って、「n」が「m」に表記されている理由とか、普段は見逃しがちだけど、ちょっとしたことに目を向けるとこんなに追究できるんだなって気づきました。ああ、日本語ってこんなに面白いんだなって感じたきっかけになる講義でした。

 私は、日常生活にあるものを研究できるっていうことに「スペシャル」感がある気がするんです。その中で「大学ってこういう、ちょっとしたことを勉強する場所だな」っていう考えが私の中にあって、大学に入ってから実際にそう思ったのがこの授業だったので、すごく印象に残っています。

北原 自分も1年生の必修科目の授業で「素読(Ⅰ~Ⅳ)」っていう、音読主体の授業です。渡されたテキストを音読する中で「この言葉はどんな意味だと思う?」とか「論語について調べてきてね」とかって、先生ごとに聞かれることが違うんですけど、今のゼミの先生の素読が印象的でした。古今和歌集あたりの平安文学から抜粋して、ひとりが音読したものに対して「今の読み方どうだった?」って聞くような、自由な講義だったんです。細かい専門知識を学ぶのが目的ではないんですけど、興味関心を刺激させられて、そこから自分であれば「平安時代の文学を研究したいな」っていう思いを持って自分の研究を固めていきました。1年生のときに研究の入り口に立って、2年生でちょっと深めて、3年生から研究、っていう流れかな。

――文芸学部では他学科の授業も含め、様々な授業を受講・聴講することができますが、他に印象的だった、受けてよかったと思った講義を教えてください。

稲野 教職課程の講義で「教育心理学」です。受講していて色々な気づきがあったのがこの講義だったなと思います。例えば、記憶の仕組みで、英語を勉強してからフランス語を勉強すると、フランス語が英語の邪魔するよ、っていうのがあるんですよ。

北原 ああ、わかる……。

稲野 (笑)。こんな感じで「これ知ってたら、物事に対する意識が違ってたかも」っていうことを学ぶことができました。教育者になるってことは、生徒に向けて指導するようになるってことだから、自分が今まで生徒として生きてきて「どんな指導を受けてきたかな」っていうことを振り返る必要があるんです。特に「教育心理学」は教職課程の講義の中でも自分を振り返るような内容で、「よく考えたらそういう仕組みだったのね」っていうことがわかったのでよかったなって思います。

 あと、子どもたちを「頑張ったね」って褒めることの具体的な効果を講義から学んで、それをアルバイトしている塾で実践することもできました。実際に先生になる前に実践的なことができて、楽しかったなぁと思います。

北原 自分は「現代社会論Ⅱ サブカルチャー史/論」が好きでした。授業内容が面白くて、ディズニー、アニメ、アイドルとかのサブカルチャーについてだったり、1990年代から2000年代の不安定な時期を代表する人間、バブル期より前の学生運動が起こった頃の時代・文化を教えてくださいました。アイドルだと、『BiSH2 』とか、1990年代の人間だと『南条あや3 』について知ることができました。当時の物事を考えるネタになったし、研究していること、興味のあることへの補強になるような講義でした。講義内容が本当に奔放だし、先生も奔放なんだよね(笑)。

稲野 いいな、その講義気になる(笑)。


2、”楽器を持たないパンクバンド”(公式HP 『PROFILE』 より)、アイドルグループ

3、フリーライター、ネットアイドル


 「これから」に向けて

――最後に、国文学科に興味のある人へ、ひとことお願いします。

北原 国文学系統に進みたいと思っている高校生へ向けてになるんですけど、『伊勢物語』を研究するなかで読んだ、三島由紀夫さんの『古典文学読本』(中公文庫)をおススメしたいです。

 この本の中に「伊勢物語について」っていう章があるんですけど、ここに書かれている三島由紀夫の『伊勢物語』に対する考えに感動したんです。誰かの考えが自分の考えと「合う・合わない」っていうぶつかりはあると思うんですけど、しっかり勉強していらっしゃる人の美意識に触れるって大事なことだなってこの本を読んで思いました。なので、高校生のうちから読むのは難しいかもしれないけど、とりあえず買っておいて、自分の興味のある所から読み進めていくと面白いかなって思います。

稲野 いろんな場所へ足を運んで、たくさん本を読んで、いろんな人と出会ってください。今、いろいろと悩んでいる時期だと思いますが、悩むだけいいことが待っていると思うので、頑張ってください!

 Topic インタビュアーのつぶやき 

 今回インタビューを受けてくださったおふたりの話を聴き、「大学の勉強ってどんなものなのだろう?」ということについて、改めて考えさせられました。

 普段、日常的に大学に通い、享受している講義は、高校までの授業とは違い「自分の興味関心の赴くままに受けられる」ものである、ということ。また、こういった性質を持つ大学の講義は、たった4年しか味わうことができないもので、それを自覚して大学生活を過ごしているだろうか、ということ。

 そんな「当たり前」のことを「当たり前」で終わらせない、「当たり前」を追及することに面白さがあり、それを研究するのが大学の面白さなのだ、ということを、おふたりは伝えてくださいました。