文芸学部のこと

文芸のいろは 芸術学科

2020.02.21

 「これまで」の自分と向き合って

――芸術学科を選んだ理由について、お聞かせください。

吉田夏実(以下、吉田) 私は芸術高校で演劇を学んでたんですけど、そこで美術科とか音楽科とか、他科の子たちと仲良くする機会があったんです。それで、自分で色んな展示会や舞台、映画とかに足を運ぶようになって、自分は「芸術全般に興味があるな」っていうことに気がつきました。きっかけのひとつがそれで、もうひとつのきっかけが高校の授業です。高校の頃は週に10時間以上演劇に関する授業がありました。その中でも身体表現を徹底的にやる授業とか、台詞読みを徹底的にやる授業とか、選択授業で戯曲を自分で書いてみる授業とか……いろんな授業を受けて、自分の身で実践するより、学問として全体的に芸術を知った上で、他の芸術を絡め合わせたものを作ることができないかなって思ったんです。成城の芸術学科は専攻ゼミが4年からだから、3年の終わりまで「幅広く全部のことを学べる」っていうのを魅力に感じたので、成城の芸術学科を志望しました。

稲垣文人(以下、稲垣) 僕も吉田さんと同じ芸術高校の出身で、芸術学科に来た一番の理由は指定校推薦で成城大学の芸術学科があったってことなんですけど、僕は身体表現の「肉」的な、頭脳を使わない直感的なものが得意で、というか、それしか得意じゃなかったんですよ。演劇について論理的なことであったり学術的なことを考えるのが苦手だったので、そういうことをいっぱい勉強したいなぁって思って、成城大学の芸術学科調べてみたら、ゼミが始まるまで3年間もちゃんと自分の考えをまとめる時間があるってのがいいなと思ったんです。

 実はそもそも大学に行くかも迷ってて、劇場の研修所に入るのもいいなって思ったんです。だけど、それは後からできることだから、大学に入って、演劇だけじゃなく、それに関与する分野をいっぱい学んで、体系的に演劇をまとめられたら自分の苦手を克服できるかなって思って、大学に行きました。

 今大学2年生なんですけど、高校3年間って「演劇」のほんの上澄み部分をちょっと舐めただけだったんだなってくらい、何も知らなかったってことがわかって……。それって演劇しかやってこなかったからだなって思うんです。今は映画とか、音楽、西洋美術の芸術分野、それ以外にも哲学や社会学を勉強したからこそ、より演劇のことを学べているな、って思います。 

 「娯楽」を「学び」へ

――自身の興味関心について、お聞かせください。

稲垣 個人的に残念……というか、面白いなって思っていることなんですけど、今は演劇よりも、映画とか音楽に興味があって。でもそういうのもありなんじゃないかなって思ってます。「俺は『演劇一筋』っていう人間か?」っていうことを考える、いい機会になりましたね。他の大学で芸術学んでいる子も「音楽のほうが好きだった」とか「芸術理論のほうが好きだった」ってことが多くて、「表現の正解は演劇だけじゃないんだよ」っていうことがわかったのは貴重だったなと思います。

吉田 家庭環境が芸術一家なこともあって、高校の頃から映画はいっぱい観ていたりと、元から芸術には興味がありました。演劇の公演で、舞台幕にクリムトの『接吻』が使われていたのを見たことがあって、その当時もクリムトの『接吻』だってことはわかったんですけど、大学に入ってからクリムトについて学んで「あっ、こういう意味で舞台の幕に使ってたのかな」ってわかったんです。その時に、舞台の美術も西洋美術に通じるものがあるな、っていう気づきがありましたね。

稲垣 僕はちっちゃいころから、アンチではないんですけどポピュラーミュージックを聞いていなくて、レッチリ(Red Hot Chili Peppers)とかマーヴィン・ゲイを聴いてたんです。その時はあんまり芸術を芸術として捉えていなくて、自分の生活の「娯楽」としての意識が強かったんですよ。

 芸術を「芸術」たるものとして捉え始めたのは、やっぱり高校生に入ってからですかね。小学生からミュージカルをやっていたんですけど、自分の得意な感覚的なもので乗り越えていて。高校に入ってやけに難しい文学に出会ったりしてから、それを理解するために、芸術を理解しなきゃなって思い始めました。

 高校3年生の時にやった劇がシェイクスピアのものなんですけど、シェイクスピアの戯曲ってセリフが全部なにかの表象なんですよね。で、「なんでこういうセリフが書かれたんだろう」ってい時代状況とか、高校ではあんま教えてくれなかったんです。それが大学に入ってヨーロッパ文化を学んだ時に理解できて、その爽快感に「あ、これは大学行っていてよかったな」って思いました。

――他学科(ヨーロッパ文化)の話が出たところで。芸術学科は、他学科の講義を受講して研究に結び付けることが重要だと思うのですが、芸術学科の講義以外で受講していて面白かった講義はありますか。

吉田 今はジェンダーの授業とか、哲学の授業とか取ってるけど、「ヨーロッパの文学講義Ⅱ(仏)」が面白かったかな。フランス文学って浮気とか二股が多いっていうことを知って(悪い意味ではなく)国柄について触れるのは面白かったし、その後にフランスの戯曲とか読んで、恋愛部分が出てくると「あっ、ああいう価値観だからこういうセリフが出てくるんだな」っていうことがわかるし。ヨーロッパ文化の授業は基本面白いかな。

稲垣 授業の時間まで覚えてるんですけど、水曜2限の「現代社会論Ⅶ カルチュラル・スタディーズ」がめちゃめちゃ面白かったです。僕、パンクとかモッズとかのブリティッシュ・カルチャーが好きなんですけど、もっと好きになりたいなって思ってたところに、副題で「イギリスのサブカルチャーを探る」って書いてあって、これしかねぇわって思って(笑)。

 なんでイギリスで反抗的な若者が出てきたのかって、「結局いつも芸術って何かの表象で、時代が変われば表象も変わってくる」っていうのを先生が時代ごとに並べて解説してくださって、それを理解できたのはよかったなって思います。

 芸術って今まで神であったり王権みたいな「支配」を打ち破ってきていて、でも芸術で「支配」を打ち破るためには「支配」についていっぱい学ばないといけないんですよね。だから、僕は今バンドをやっていて、吉田さんも……アーティスト、なのかな?

吉田 ……えっ、そうなの?(笑)

稲垣 (笑)。でも、一応芸術家としての気持ちで居たいじゃないですか。やっぱり。

吉田 うんうん。

稲垣 だから、いっぱい勉強しなきゃなって思うんですよ。西洋美術あんまり好きじゃないけど……。でも、芸術家として、色んなことについて勉強しないと新しい表現に繋がっていかないなって思います。だから、大学に行って芸術を勉強する意味があるかなって、最近すごく思います。

――そんな2年生の稲垣さんに、3年生の吉田さんから「こういうことをしておいたほうがいい」っていうアドバイスはありますか。

吉田 そうだな……。どのゼミに入るのかはわからないけど、「時間を作って繰り返し何かを見る」っていうことの練習はかなりやった方がいいって思う。

 今までやってきた演劇って一回性のものだから、何回も繰り返し観ることってできないし、映像で繰り返して観るってのも経験がないかもしれないけど、映画学は何回も映像を観るし、西洋美術でも作品の論文を調べて何回も読み直してるし、美術に限らず、すべてのことを繰り返していかなきゃいけないから、その練習は2年生のうちからやっとくといいかなって思う。

稲垣 繰り返し苦手なんだよなぁ俺……。

全員 (笑) 

 「これから」のみんなに向けて

――最後に、これから芸術学科を目指す人に向けて、ひとことお願いします。

吉田 私が何で芸術学科を志望してるかっていうのにも共通するんだけど、やっぱり幅広く勉強しておかないと自分の可能性も広がらないと思います。

 私たち(吉田・稲垣)は指定校推薦だから成績が大事だったけど、指定校推薦は高校1年2年の成績が大事だから、最初から幅広く勉強してちゃんといい成績とって、自分の選択肢を増やすっていうのはすごい大事だと思う。私は高校のときに友達ふたりと週の勉強時間のノルマ決めたりとか、長期休みは何百時間やろうとか決めて、できなかったら罰ゲームみたいなことをしてました(笑)。ゲーム感覚でいいから、ひとりで溜め込まないで、友達と切磋琢磨していけるように具体的な目標を決めてやったほうがやりやすいかなって思います。そういうときはちっちゃいノルマをいっぱいやったほうがいいのかなって思いますね。続けることが大事だから。

稲垣 僕はちょっと心構え的なことなんですけど、結局学生って社会人より時間があるから、いっぱい作品を見て、自分の無力さっていうか、知識の無さを改めて体感するのは大事だなって思います。

 「俺何でも知ってます」みたいな人って芸術学科にたまにいるんですけど……。いや、本当にめっちゃ努力して勉強してる人はいいと思うんですけど、知ったかぶりってもったいないなって思って。僕も大学入って最初尖ってたんですけど、それだとなんか講義面白くないんですよね。逆に「何も知らなくて無知なんだ」って自分に言い聞かせたら、教授の言うことを素直に受け止められるようになって、講義が面白くなったんで、「自分は基本的にバカで、何も知らない」って思っていた方が、勉強していて面白いと思います。

吉田 謙虚にね。

稲垣 そう、謙虚に。傲慢にならずに。

 Topic インタビュアーのつぶやき

   インタビュー終了後に、短い時間ながらも、歩きながら『ビートルズのすべて』と『イエスタデイ』、2つの映像作品について語り合っていた2人。

   その様子を見て「学問とは少し離れた趣味だったりするものを、学問として友達と語り合える」。こういうことって高校じゃなかなか経験できないから、こんな何気ない会話も、大学の面白いところだよなぁ……なんて思いました。

   個人的に、大学での「学び」は、どこかしら「自分の興味関心」が原動力になっていると考えています。今回インタビューを受けてくださったお2人のように「大学に来た」また「大学に行きたい」と思った理由は、どうしても、どこかしらに自分自身が関わっているのではないか……。

   そんなことを自分に問うてみると、大学に入っても変わらない自分、また大学に入って変わった自分に気がつける。大学って、こんな「気づき」が連鎖していく場所なんだなと、インタビューを通じて感じました。