読みもの
週末ブンゲイ 第1回 「創造の週末」
2020.02.07
はじめまして、こんにちは。
「週末ブンゲイ」担当のタネイシです。
新しい週末が、新しい自分をつくる。
そんな体験の入り口を、このコーナーで皆さんに提案していきたいと思っています。
暇で、忙しくて、大変で、楽しい週末を過ごす成城大学生たち!
充実した時間を過ごせていますか?
大学生であるこの期間に感性を養うことは、今後の人生をよりよく生きる糧になると思います。
おとなのようなこどものようなこの時期に触れる何かが、空白だったあなたの一部を作ってくれるかもしれないし、頑なになってしまったあなたの一部を壊してくれるかもしれない。
未知への一歩を踏み出す、とまで大げさなものではありませんが、いつもとちょっとだけ違う週末を一緒にどうでしょう。
さてさて、本題といきましょう。
初回である今回のテーマは「創造」です。
文芸学部はインプットとアウトプットが常に伴う学部です。
観て、聴いて、読んでは、思考し、言語化し、視覚化し、カタチをつくる。
文芸学部と創造は切っても切り離せない関係にあります。
今回紹介する作品は、そんなテーマにぴったりの漫画です。
作者:水城せとな
出版社:小学館
全9巻
あらすじ
主人公はケーキ屋の実家を持つ小動爽太(こゆるぎ そうた)。
彼が、高校の先輩で学年一のモテ女「サエコさん」に失恋するところから物語は始まる。
サエコさんの大好きなチョコレートで彼女の心を射止めるべく、爽太はショコラティエとなる。
創造に対する真摯な姿勢と哲学
ショコラティエである爽太は、作中様々なアイディアで魅力的なチョコレートを生み出していきます。その過程の描写や言葉から、作者自身の創造に対する姿勢と哲学が感じられます。
爽太は恋で感じた喜び、苦しみ、相手を振り向かせるための戦略、邪な妄想。それらすべてをチョコレートへと昇華し、彼自身も成長していきます。作中で爽太は、「喜怒哀楽の中で一番クリエイティブな感性を刺激するのは哀だ。傷ついた心が必死で幸福を引き寄せようとする」と語っています。互いの腹を探り合う、戦略に満ちた駆け引きの中で爽太は何度も傷つきます。しかし、そのたびに彼の創造は進化していくのです。
私たちが普段感じている喜びも悲しみも、おそらく絶望でさえも決して無駄ではなく、何かを生み出すチカラを持っている。そう思えば、自分の傷も愛おしく感じられる。そんな作者の思いが作品のあちこちに滲んでいます。
また、水城せとな作品の特徴として非常にリアルな心理描写・人物描写が挙げられます。
向き合いたくない自分の感情や、良い・悪いの二元論では語れない人間の複雑さが巧みに表現されています。感情移入してしまう人は思わず目を背けたくなってしまうほど、突き刺さる言葉や心の機微。おそらくその表現たちは、作者が自分自身の感情に真摯に向き合い続けることから生まれたのだと思います。
生きていくうえで生まれる、決して綺麗とは言い難い感情。そこに、「どうして自分はこの気持ちを感じたのだろう」「この気持ちの根源はなんだろう」と問い続けることでしか出会えない自分もいます。ありのままの感情と正面から向き合うことはとても苦しいことです。ですが、そうすることでしかできない表現があるはずです。今まで当たり前だと思っていたことがひっくり返るような経験もできるかもしれません。その経験が、いずれ何かを生み出す一助になります。
2月に入り、寒さが最も厳しい季節になりました。
お気に入りの温かい飲み物とチョコレートを片手に『失恋ショコラティエ』を読んでみて下さい。
そして、凍てつく風の冷たさや、掌で感じる温かさを、あなたという文脈から生み出せるもので表現してみてはどうでしょう。詩でも、絵でも、音でも、なんでも。
誰に見せるわけでもなくていいのです。
これまで経験してきたやりきれない悲しみや沸き立つような喜びが、あなたの表現をより豊かなものにしていることに気づくことがあるかもれません。
それでは皆さん、よき週末を。
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